「希少性の原理」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。言葉を聞いたことがない人でも、
- 希少なものは価格が高い
- 希少なものは欲しい人が多い
というように、感覚的に知っている人がほとんどではないでしょうか。一方で、この原理をしっかりと理解し、ビジネスに取り入れられている人は少ないです。ここからは、ビジネスに希少性の原理を取り入れ、売上を上げたい人向けに、その方法を詳しく解説します。
希少性の原理は、気づいていないだけで、様々なビジネスに取り入れられています。あなたが希少だと思い、価値を感じているものは、実は誰かの手によって、希少だと思わされている可能性だってあるのです。この原理をしっかりと学び、使いこなすことで、あなたが持つ商品の価値は、何倍にも高まる可能性があります。商品の価値を上げる方法の一つとして是非学び、実践してください。
心理学における希少性の原理とは
商品が持つ希少性によって、経済的価値が判断されることを「希少性の原理」と言います。すべての財・サービスの経済的価値は、人が生活する上で、それらが必須か否かではなく、希少性の有無によって決定します。希少性の原理が働くと、商品本来の価値に関係なく、希少性がある商品の経済的価値は高く、逆に希少性のない商品の経済的価値は低いと判断されるのです。
希少性の原理を裏付ける実験結果
希少性の原理を証明するための実験として、ステファン・ウォーチェルが行った実験が有名です。実験の内容は、2つのグループを用意し、それぞれに同じ種類のクッキーを配ります。一方のグループには、人数に対して十分な枚数のクッキーを配り、もう一方のグループには、人数に対して不足した量のクッキーを配ります。その上でクッキーの感想を聞いたところ、同じクッキーにも関わらず、クッキーが不足していたグループの方が、美味しいなどの好意的な意見が多く出ました。
需要に対して供給が少ない状況では、本来の価値よりも高い価値がつけられるという、希少性の原理を証明する実験結果となっています。
希少性の原理の背景
希少性の原理が起こる背景には、様々な要素が考えられます。その内の一つにFOMO(フォーモ)が関係していることをご存知でしょうか。FOMOは“Fear of Missing Out(フィアーオブミッシングアウト)”の略で、取り残される恐怖を指します。自分だけが、希少な商品を手に入れられないことを恐れる人が多いからこそ、その商品の価値が高くなります。SNSの普及により、様々な情報が共有されるようになった現代では、FOMOの影響がどんどん大きくなっています。
マーケティング効果を数倍にする希少性の原理
効果的なマーケティングを行う上で、希少性の原理は無視できません。この原理を使いこなせるか否かで、あなたのマーケティング効果は数倍レベルで変わります。希少性はお客様の購買意欲を大きくするためです。前述したクッキーを使った実験でも分かる通り、希少なものは、本来の価値よりも過大に評価される傾向があります。このことを証明する心理学的根拠は多数ありますが、ロミオとジュリエット効果がイメージしやすいでしょう。
ロミオとジュリエット効果とは、手に入れるまでの難易度が高いほど、その商品を欲しいと感じることを意味します。身近な例で言えば、購入権が抽選の商品は、誰でも購入できる商品よりも魅力的に映る、などがあります。
希少性を高めるための3要素
マーケティングを行う上で、希少性を高めるためには3つの要素を意識する必要があります。3つの要素とは、数量、期間、特典を指します。これらの要素を意識し、マーケティングに活かすことで、本来の商品価値よりも高い評価を得られます。
要素1:数量
需要に対して供給できる数が少ないほど、人は価値を感じます。欲しい人全員に行き渡るまで増産される商品は希少性が低くなります。一方で限られた数量しか生産されない商品は、需要が大きければ大きいほど、供給との差異が生まれ、その差異が希少性に繋がります。例えば、生産量の決まったコラボスニーカーなどがこれに当たります。
要素2:期間
購入できる期間が限られている商品ほど、人は価値を感じます。商品自体が特別ではなくても、今しか買えないという付加価値が、商品に希少性を与えます。欲しい時に購入できないことが明確で、将来需要と供給に明確な差異が生じることが分かっているためです。例えば、スターバックスの期間限定商品などがこれに当たります。
要素3:特典(特別感)
特典、言い換えれば特別感が得られる商品に人は価値を感じます。特定の場所でしか手に入らないということは、供給が制限されているとも考えられます。欲しい人全員が購入できるわけではない、ということは、商品が希少性を持つための条件を満たしています。例えば、会員限定の商品などがこれに当たります。
希少性の原理を使ったマーケティング事例2選
希少性の原理は自然に発生するだけでなく、人の手によって作り出すこともできます。身近な商品にも、希少性の原理を利用し、成功したマーケティング事例が多くありますが、ここでは2つ紹介します。
事例1:ダイヤモンドの販売戦略
ダイヤモンドは希少かつ高価なもの、というのが世の中の常識です。ただこの希少なイメージは、デビアス社によって人為的に作られている、と知らない人は多いのではないでしょうか。ダイヤモンドが希少なのは、需要に対して供給が少ないからです。これは採掘量が少ないわけではなく、業界全体として流通量を制限していることが原因です。本当に数が少ないか否かは問題ではなく、流通量の制限によって希少性を生むことができる例となっています。
事例2:マクドナルドの期間限定商品
マクドナルドの月見バーガーも希少性の原理を使った販売戦略がとられています。月見バーガーを食べたことがある人は多いと思います。発売日には行列ができるほどの人気ですが、発売期間は1ヶ月程度です。通年で販売した方がいい、と考えた人は、希少性の原理をマーケティングに活かす脳になっていません。味も重要ですが、1ヶ月の間にしか食べられないからこそ、月見バーガーは人気なのです。季節に関係ない原材料を使いつつ、期間を限定した商品には、希少性の原理を人為的に起こす意図が多分に含まれています。
希少性の法則を使う上での注意点
希少性の原理は、うまく使うことで非常に強い力を発揮します。一方で、使い方を誤れば、強力な分、失敗した時の反動も大きくなります。心理学をビジネスに用いる際には共通して言えることですが、人の心理を操る分、使うべきタイミングと方法は、しっかりと見極めることが大切です。ここでは絶対に守るべきルールを2つ紹介します。
嘘の説明はお客様の信頼を失う
嘘をついて希少性の原理を利用することは、お客様との信頼関係を破壊するため絶対にNGです。先ほどご説明したダイヤモンドのように、希少性を維持し続けるのであれば問題ありません。一方で、数量限定、再販予定なし、として売り出した商品を、増産するなどは、お客様からの信頼を失うきっかけになります。希少性を評価し購入したお客様からすれば、その希少性が失われれば、商品の価値がなくなります。購入時の価格に見合った価値は維持する意識を持ちましょう。
使いすぎは効果が薄まるため使い所を見極める
期間限定とした商品を、1年の間に何度も販売すると、希少性がなくなる原因となります。どうせまたすぐに始まるだろう、と思われては、今後本当に期間限定の商品が出た際にも、希少性の原理が働かなくなります。
人気商品を何度か販売したい場合は、スターバックスやマクドナルドの方法を真似るといいでしょう。彼らは同じような商品を1年の間に複数回出す場合、コンセプトを変えることで希少性を維持しています。例えば、スターバックスは、いちごの商品を出す際、純粋ないちごで出す時と、クリスマスバージョンで出す時とがあります。マクドナルドは、人気の高い卵を使った商品を、月見バーガーとてりたまのように、コンセプトをずらして出すことで希少性を保っています。
まとめ
ここまで、希少性の原理を使ってマーケティングの効果を高める方法を解説してきました。最後に要点を4つにまとめました。
- 希少性の原理とは、需要に対して供給が少ない時に、その商品を本来の価値よりも高く評価すること
- 希少性の原理は自然発生するものだけでなく、人為的に作り出すことができる
- 希少性の原理をマーケティングに使う際は、数量、期間、特典を意識して取り入れる
- 非常に強力な原理だからこそ、悪用はせず、使い所を見極めて使うことが大切